2005年 12月 08日
私の事件簿 Vol.2 |
調子に乗ってもう一話、くっきり思い出したあの事件を。
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私の?事件簿 ~FILE 2~
=溺れた男=
”飽きっぽい性格”が幸いして経験したバイトの種類だけは異様に豊富である。
何年も務め上げました!なんていう立派な功績はないかわりに
バイトという、特殊な労働形態においてこそおこる
”愉快な出来事”をいろんな角度から体験していることは
ある意味大いに”自慢”であったりする。
※
それはとある”ラーメン屋”で働いていたときのこと。
その日はたしか遅番で、夕方から夜中前までの勤務だったと思う。
店内中央にある、カウンター越しに中が望める厨房で
いつものように割ぽう着で長靴姿の私は
豚の背油をはり切って振っていた。
もう少しでその日の勤務もおわりそうな、真夜中もそろそろという頃。
赤ら顔のおじさんが一人、ふうらりと店に入ってきた。
駅に近く、近所には居酒屋なんかもたくさんあったので
そうしてお酒のあとの一杯を食べに立ち寄るお客さんは多かった。
そのおじさんもどうやら、そうだったようである。
おじさんは赤ら顔ではあったがひどく酔っ払っているという様子はなかった。
なぜなら”ラーメンにわかめをトッピング”する、という
泥酔していてはできない繊細な選択をしてのけたからである。
「ラーメンわかめ一丁!」
掛け声も高らかに麺をゆで背油をふる。
わかめがたっぷり乗ったラーメンは
ほのかな磯の香りとともにおじさんの前に運ばれていった。
その後立て続けに入った注文を出し終えて
なにげなくほっと店内に目をやったわたしは
カウンター越しに見える赤ら顔のおじさんの様子が妙に気になった。
???
???
・・・・もしや
寝てる???
そう、おじさんはお箸とレンゲを持ちどんぶりに向かったまま
夢の世界へと行ってしまわれたようなのだ。
ちょいと箸でつまみあげたらしい麺がゆ~らりゆらり。。。
わかめが放つ磯の香りのせいなのだろうか。
おじさんはそのうち大きく船を漕ぎ出した。
こくり・・・・こくり・・・こく・・・・・
バシャ============!!!!
ゴボゴボゴボ~~~~という変な音がした。
おじさんの頭はラーメンスープの中にホールインワン!
一瞬どうしたらいいのかわからなかったのだろう。
頭を突っ込んだままれんげと箸をもった両手をばたつかせ
ゴボゴボ、ゴボゴボ・・・・・
こ・・・これは!!!溺れている!!!??
「お、、お客様~~~~!!!???」
私の大声に我に返ったおじさんはパッとスープの中から顔を上げた。
驚きおののいたおじさんの顔には、
小粋にトッピングしてみたわかめが所狭しと張り付き
まぬけさをさらに増幅させてしまっていた。。。
恥ずかしくてあわててしまったのだろう。
すでにお代は券売機で支払い済みだったのだが
なぜだかカウンターに1000円札を置き、
わかめでデコレートされたおじさんは足早に店を出て行った。
私
「溺れてたよね・・・」
バイト
「うん、溺れてた」
お客さん
「溺れて・・・ましたね」
私
「あ、そう思いました?やっぱ。。」
その時おじさんの去った店内にいた全員の意見は見事に一致した。
人はラーメンで溺れることがある
おかげで私は
そんなあまりにも非凡で貴重な光景の
”目撃者”である。
by maxumi
| 2005-12-08 14:49
| 不定期連載・私の事件簿